東京地方裁判所 昭和55年(特わ)19号 判決 1980年7月21日
本店所在地
東京都武蔵野市西久保一丁目三番一号
三鷹建設株式会社
(右代表者代表取締役 前田利夫)
本籍
東京都三鷹市大沢四丁目四三番地五
住居
同都同市大沢四丁目五番九号
会社役員
前田利夫
昭和七年六月六日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官寺西輝泰出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人三鷹建設株式会社を罰金二、五〇〇万円に
被告人前田利夫を懲役一年二月に
それぞれ処する。
被告人前田利夫に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人三鷹建設株式会社(以下「被告会社」という。)は、東京都武蔵野市西久保一丁目三番一号(昭和五四年三月三〇日以前は同都三鷹市下連雀三丁目三五番一五号)に本店を置き、不動産の売買及び建売等を目的とする資本金三、〇〇〇万円の株式会社であり、被告人前田利夫は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人前田は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空経費を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ、
第一、昭和五〇年一二月一日から同五一年一一月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四、六七二万五、五七二円(別紙(一)修正損益計算書参照)、土地譲渡利益金額が四、五六〇万円あつたのにかかわらず、同五二年一月三一日、同都武蔵野市吉祥寺本町三丁目二七番一号所在の所轄武蔵野税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一、六二三万八、六六一円、土地譲渡利益金額が四、二〇〇万八、〇〇〇円であり、これに対する法人税額が一、三〇〇万四、一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五五年押第八二四号の一)を提出し、もつて不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額二、五九一万七、三〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)と右申告税額との差額一、二九一万三、二〇〇円を免れ
第二、昭和五一年一二月一日から同五二年一一月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が九、二二三万五、六一九円(別紙(二)修正損益計算書参照)、土地譲渡利益金額が一億〇、九五八万七、〇〇〇円あつたのにかかわらず、同五三年一月三一日、前記武蔵野税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二、〇一一万七、〇五七円、土地譲渡利益金額が八、三二九万四、〇〇〇円であり、これに対する法人税額が二、二七六万五、六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の二)を提出し、もつて不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額五、六八七万一、四〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)と右申告税額との差額三、四一〇万五、八〇〇円を免れ
第三、昭和五二年一二月一日から同五三年一一月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が八、二五九万五、七三三円(別紙(三)修正損益計算書参照)、土地譲渡利益金額が一億一、四四三万八、〇〇〇円あつたのにかかわらず、同五四年一月三一日、前記武蔵野税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二五九万〇、八四〇円の欠損であり、土地譲渡利益金額は六、六九七万四、〇〇〇円でその法人税額が一、二二一万四、四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の三)を提出し、もつて不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額五、三九〇万五、二〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)と右申告税額との差額四、一六九万〇、八〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
一、被告人前田利夫の当公判廷における供述及び検察官に対する供述調書三通
一、収税官吏の被告人前田利夫に対する質問てん末書二通
一、小坂雄志郎作成にかかる被告人前田利夫ほか一名の申述書
一、前田隆及び五十嵐真一(二通)の検察官に対する各供述調書
一、収税官吏の前田隆(二通)及び五十嵐真一に対する各質問てん末書
一、収税官吏作成の棚卸、売上原価、労務費、架空仲介手数料、給与勘定、消耗品勘定、厚生費、雑費勘定、受取利息、価格変動準備金、支払利息及び雑収入勘定に関する各調査書各一通
一、収税官吏作成の未納事業税認定損及び土地重課に関する各計算書各一通
一、武蔵野税務署長作成の「証明書」と題する書面
一、登記官作成の登記簿謄本
一、押収してある確定申告書三袋(昭和五五年押第八二四号の一ないし三)、修正申告書一袋(同号の四)、元帳二冊(同号の五及び六)並びに決算報告書綴一冊(同号の七)
(法令の適用)
被告人前田利夫の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年二月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間、右刑の執行を猶予することとする。さらに、被告人前田利夫の判示各所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、法人税法一六四条一項により判示各事実につき同法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で被告会社を罰金二、五〇〇万円に処することとする。
(量刑の事情)
本件犯行は、大工見習から身を起こし一代で住宅の建売を主たる営業内容とする年間売上一〇億円余りの被告会社を築きあげた被告人において、被告会社の業務に関し、三年間にわたり合計九、〇〇〇万円近くの脱税をしたというものである。
ところで、弁護人及び被告人は、被告人の脱税の動機の一つとして土地譲渡益重課制度による高率課税をあげ、これが被告会社の資金繰りを悪くさせたと指摘するとともに、右土地譲渡益重課制度の不当性を論難し、あるいは税理士の指導が悪くそれゆえ脱税行為に及んだかの如く主張するが、いずれも被告人の脱税行為を正当化するものではないことは明らかであり、脱税の動機、態様の点において他に格別斟酌すべき点はみられず、脱税額も少ないといえないのであつて、被告人及び被告会社の刑責はたやすく看過することができない。
しかしながら、犯行後被告会社は分納とはいえ、本税、延滞税・重加算税等の支払に応じていること、新しい税理士を依頼し健全な経理体制を整えたこと、被告人にはこれまでに業務上過失傷害の罪で二回罰金刑に処せられたほかには前科・前歴のないこと等被告人・被告会社に有利な事情も認められ、その他被告人の反省の程度等本件に顕われたすべての事情を総合考慮し、主文のとおり量刑する。
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小瀬保郎 裁判官 久保眞人 裁判官 川口政明)
別紙(一) 修正損益計算書
三鷹建設株式会社
自 昭和50年12月1日
至 昭和51年11月30日
No.1
<省略>
No.2
<省略>
別紙(二) 修正損益計算書
三鷹建設株式会社
自 昭和51年12月1日
至 昭和52年11月30日
No.1
<省略>
No.2
<省略>
別紙(三) 修正損益計算書
三鷹建設株式会社
自 昭和52年12月1日
至 昭和53年11月30日
No.1
<省略>
No.2
<省略>
別紙(四)
税額計算書
<省略>